<33> 老犬お散歩事情
マインは16歳7ヶ月の今でも毎日２回、朝と夕方に散歩に行く。もともと散歩は好きで、嫌がる様子もまだないので普通に続けている。
もっとも、散歩の仕方はかつてとはまったく違う。最近の散歩は3つのパートに分かれている。パート1は抱っこ（！）である。その間に足や肉球、お尻や背中をマッサージ。そうしていると次第に自分で歩く気になってきたり、あるいは「う」がしたくなってきたりして、「下ろせ下ろせ」とジタバタし始める。
そこで下ろしてからがパート2。ゆっくりゆっくり歩き始める。歩いているのかどうかわからないほどだが、確実に進んではいて、止まることはないので、任せている。この間、私はほとんど瞑想状態。
そうしているうちに、ふとスイッチが入り、ここからがパート3。急に駆け出す。最初は前脚が突っ張る感じで急ブレーキがかかったりもするが、だんだん長い距離を走れるようになる。その様子を見ていると、シンプルな喜びを全身で表現している感じだ。
調子よく走れた時は、マンションに戻り、抱きかかえてエレベーターに乗ったところで、肉球まであたたかくなっていて、血のめぐりが良くなったことを実感する。
ただ、この最後の部分は日によって調子に差があって、ほとんど走らずに終わることもある。この点については、あまり神経質にならないように気をつけている。歩き続けただけで「エラいね、エラいね」。マインは本当に頑張り屋だ。
時間にすれば、朝も夕方も30分くらい。無理はさせないようにしようと思っているが、老犬になってから、むしろ散歩の効果を実感するようになった。まず、散歩をしないと、とたんに「頭がぼんやり」する感じがする。例えば、トイレの失敗が多くなったり、狭いところに入って出てこれなくなったり。
関節や筋肉の動きも悪くなるのか、家の中で後ろの脚が「カクン」と折れて、お尻が落ちることが多くなる。チックのように頭が後ろ向きに「カクカク」するのも増える。腸の動きも鈍くなって、「う」も出にくくなる。
人間でも、高齢者にとって散歩は身体機能の維持から認知症の予防、ストレスの発散まで、さまざまな効果があるというが、マインを見ていると、犬もまったく同じだと思う。
コースについては、車や人が少ないことがわかっている定番コースのほか、いくつかバリエーションがある。目や耳が悪くなってきたら変えない方がいいと聞いたこともあるが、触覚や嗅覚の刺激も大事ならと、時々ちょっと遠くの公園などにも連れて行く。
それでも、他の犬と接するのは苦手になった。もともと、そういうところはあったが、最近はその傾向が一段と強くなって、見つけると結構大きな声で一声吠えて追いかける。向こうは（飼い主さんもワンコも）「トロトロ歩いているからトシなんだな」と思っていただろうから、俄然張り切るマインを見て、（飼い主さんもワンコも）「なんだなんだ」という顔をする。
私にしてみると、それも一種の活力に見えてしまうので（そもそも、相手の犬がまだちゃんと見えているところで喜んでしまう）、心の中で「よかった、今日も元気だ」と思うのだが、相手にとって迷惑であることは間違いないので、一応マインを制止して謝る。
話ができそうであれば、話をすることもある。マインの年齢を聞くと驚いて「元気で何よりだわ。どうぞどうぞ、うちのはいくら吠えられても平気だから、どんどん吠えてやって」とまで言ってもらうこともあって恐縮する。でも、ワンコは「冗談じゃない」という顔で飼い主さんを見ているので、丁重に辞退する。
それでも、老犬に対して、たいていの人はとても優しい。話しかけてくれる人も多い。トロトロ歩いているだけでも「頑張ってるね」「エラいね」と褒められる。走っているところで、10歳を超えた犬の飼い主さんに会ったりすると、「あやかりたい」と崇められ（？）すらする。そのまま、老犬トークで盛り上がることも。
マインと散歩に行くのは、私のためにもなっている。一緒に外に出て、誰とも話さず帰ってくることはまずない。顔を見ると声をかけてくれる近所の人もいる。
家の中で仕事をしていると、誰とも（マイン以外）話をしないでも一日は終わる。最近は受注も納品も、途中の打ち合わせさえメールだったりするので、電話を使うことも少ない。それはそれで慣れているから平気だが、その状態がずっと続くと、人は話すことや笑うことが本当にできなくなる。脳が命令を出せなくなるのか、口が脳の命令を実行できなくなるのかのどちらかの感じ。マインが来る前、実際にそうなって自分で驚いたことがあった。
マインといて、誰かに会って、話をするうちに、「あ、今、私、笑ってる」と気づくことがある。私はいつもマインに助けてもらっている。
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今日は、午後から雨になるというし、マインも調子が良さそうだったので、朝の散歩でちょっと遠くの公園まで行ってみた。ゆっくりゆっくり歩いていたが、写真を撮ってみると、結構いい顔をしていた。（コンデジ、悔しいけれど、相変わらずいい仕事をする……）
お読みいただき、ありがとうございました。
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