老犬とポラロイド

いつまでも続いてほしい、でも決して長くはない、老いゆく愛犬との大切な日々。

<32> 頑固な老犬とベビー用マットと防水シーツ

 マインは子どもの頃から、ペット用のベッドを使っていない。いくつか買ったことはある。でも、どんなにふかふかでもしっくりしないようだった。何度乗せても出てきてしまった。

 その代わりに使っていたのは、普通の座布団。私が一度結婚した時に持たせてもらったものだ。当時はまだ嫁入り道具などというものがあり、その一つだった。その時、母は古い布団を打ち直しに出したと言っていた。つまり、これもまた何十年ものの綿である。

 それでも、日本の昔の綿がすごいと思うのは、それ以来、打ち直しもしていないのに、まったくへたらない。カチカチにもならない。マインはその座布団が好きで、その上にシーツやタオルをかけてベッドにしていた。

 ところが少し前、マインがそこに「ちー」をした。おねしょではない。寝る前、前足でシーツをくしゃくしゃにして「巣作り」をしていた時のこと。こだわりの強いマインがああでもない、こうでもないとやった挙句、自分の好みになったところで、一瞬、「へ?」という顔をした。そして、納得できる巣ができたはずなのに、バツが悪そうに、もそもそと出てきた。

 私も一瞬、「え?」と思った。たしかに「ちー」の失敗は増えていたが、自分のベッドにしたことはなかった。これまでは失敗するにしても、トイレの方向には向かっていた。

 でも、まあ、これも仕方がない。ガシガシやって、やっとできた、ふう、と力が抜けたところで、ゆるんだということだろう。あるある。人間でも似たようなことがある。私もあれこれ受け入れるのが早くなった。

 ただ、私はそうなった布団の手入れをしたことがなかった。ネットで育児関連のサイトを調べて初めて知る。それに従って、お風呂場でひたすらお湯をかけて「ちー」を抜いた。晴れた日にしっかり干すと、案外匂いも残らないものだと知って驚く。

 とにかく、その時かぎりか、それとも続くかと、そのまま様子を見ていると、しばらくして、また同じことが起こった。さすがにそこで考えた。

 専用のベッドを買ってやったほうがいいだろうか……。

 片付けるのは構わないが、これから回数が増えてくるなら問題だった。というのは、マインと私は座布団を完全に共有していたからだ。5枚セットのいわゆる「銘仙判」の座布団を、どれがマイン用、どれが私用と分けるわけでもなく、マイン2枚、私3枚の割合で使っていた。つまり、私の敷布団でもある。洗って干す一方で無事なのをマインに回していたら、自分の分が足りなくなる。

 それにしても、今さら、ペット用のベッドを使うだろうか? 最近はマインが子どもの頃よりずっと良さそうなものがいろいろ出ているのでいけるだろうか?

 そして、できれば、必要とする事情が事情なので、丸洗いできるものがいい。だが、そうなると選択肢はいきなり減って、値段も高くなる。

 そこで、思いついたのが人間のベビー用のマットだった。丸洗いできるものが結構あり、サイズも60センチ x 90センチという、最近はやり(らしい)ベビー用でもミニサイズというのなら、今の座布団2枚分に近い。質も良さそうだ。早速、ネットで探して、レビューも高得点のものを買った。

 届いたものはたしかに気持ちいい。ポリエステルだが、しっかりしていて、私が寝ても、適度なホールド感がある。

 これなら喜んで、いや、そこまでいかなくても受け入れてくれるかも……。

 だが、マインはやっぱり拒否した。かつてと変わらず、乗せたら出てきてしまう。マット横の床で寝る。相変わらず頑固である。私が寝て見せて「ほらほら、気持ちいいよ」と言っても、「じゃあ、あげる。お母さんがそっち使えば」という顔をする。嫌なものは嫌なのだ(どうしてここまで飼い主と似るのか)

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主張する老犬「アタシのおふとんはこれ!」

 粘って聞き入れる相手ではないので早々にあきらめた。マットはいずれ、家の中でも転倒したり、衝突したりするようになったら、何かに使えるだろう。思った通り、これまでの座布団にしたら、さっさと乗って丸くなった。

 それでも、何らかの「ちー」対策はしておいた方がいい。おねしょをするようになったらオムツも必要かもしれないが、今のところ、尿意は感じて、トイレに行こうという意思はあるようなので、そのプライド(?)は尊重しようと思っている(でも、オムツを嫌がるのは容易に想像がつく。寝たきりになったらしてくれるかもしれないが)

 とにかく当面、座布団を濡らさないことを考える。そこで買ったのが防水シーツだ。人間用で、パッケージには「安心介護」の文字。

 表地は「シンカーパイル」という素材で、裏面は全面防水加工したポリウレタン。薄手でゴワゴワしない。これを座布団に巻き、その上にいつものシーツをかぶせた。疑り深いマインは「何か入れたでしょ」みたいな顔をしていたが、それでも抵抗はしなかった。

 そして、いいのか悪いのか、早速、その機能を知る機会があった。シンカーパイル地は、さらっとしているとは言わないが、しっかり吸収していて、シーツの下にはまったく漏れていない。

 何より、洗濯機で簡単に洗える。つまるところ薄いシーツ1枚なので、ベビー用マットより扱いやすい。今回買ったベビー用マットも洗濯機で丸洗いできるのだが、私の洗濯機では辛い。お風呂場で手洗い(足洗い?)しなければならないのは目に見えていた。

 どうやら防水シーツは正解のようだ。買ってよかった。

 しばらくはこれまで通り、5枚の座布団を一緒に使えばいいだろう。思えば、嫁入り道具として持たせてもらったものの中で、残っているのはこの座布団だけなのだった。

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お気に入りの布団の上で、棒灸されて、脱力する老犬。

 

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