<29>さよならポラロイド
ポラロイドが壊れた。これまでにも何度か調子を悪くして、その都度、修理に出してきたが、今度はもう直らない。専門の業者2社に出したけれど、どちらでも「もう基盤がダメ」と言われてしまった。
でも、がっかりしている暇もなく、今度はメインのカメラが故障した。中判のフィルムカメラである。もう15年くらい使っていて、これまで発表してきた作品はすべてこれで撮っている。
とにかく、まずは修理に出すしかない。このカメラについてはまた別の専門業者がいるので、そこに持っていく。
今度は修理できないわけではなかった。しかし、見積もり額を聞いて、一瞬言葉を失った。一眼レフの高級デジカメが余裕で買える。でも、このカメラについては直さないという選択肢はなかった。考えてみれば、これまで15年、さんざんあちこち連れ回し、一度の故障もなかったのだ。いいカメラなのだ。
そのカメラが今回なぜ故障したのか。思い当たることがないわけではなかった。というのは、レンズの曇りがひどかった。
湿気。
この冬、マインのために加湿器をガンガン入れていた。そして、その部屋の中で私はこのカメラを三脚につけて出したままにしていた。機会があれば、すぐにマインを撮ろうと思ったのだ。バッグに入れていると、どうしても億劫になるから、と。
しかし、カメラに湿気は大敵。なぜ、そんなことも考えなかったのだろう。情けない。ずっと一緒にいてくれた人は(私に写真を教えてくれた人でもあった)、カメラやレンズをきちんと防湿ボックスに入れていたではないか。でも、ここであらためて思い知る。そうか、私はそんなことまで頼っていたのだ。
加湿器を入れながら、カメラを出しているようなことをしたら、きっと「ダメだよ」と言ってくれる人だった。下手をすれば、あるいは、うまくいけば、「どうせ出しておくならここにしておくといいよ」と湿気の少ない玄関に三脚をつけたカメラを移動させてくれたかもしれない。私は長い間、何を、どれだけ頼って生きてきたのだろう。
愛機が戻ってくるのを待ちながら、デジカメを買うことにした。というのは、いつでも撮れるようにと中判カメラを出しっぱなしにしていたわりには、ほとんど撮れなかったからだ。実際問題として、このカメラでは今のマインは撮れない。
というのは、子どもの頃から撮られ慣れているマインはカメラを向けると「待て」ができて、シャッターの音がすると、ギャラのおやつを求めて飛んでくるという習慣が身についていた。しかも、その「待て」の間の集中力は人間より優れていた。8分の1秒でもぶれない。
でも、耳が聞こえなくなって、「待て」ができなくなった。今でもカメラを向けると、長年の習慣になっているのか、健気に寄ってくるのだが、ずんずんずんずん近づいてきてしまう。これではピントの合わせようがない。それに、年をとってきてから、どうしても頭が下がりがち。なかなか上を向いてくれない。そんなこんなで、今の、そしてこれからのマインを写真に撮るには、とにかく小さいのが必要だった。
コンデジを買おう!
考えてみれば、中判だ、フィルムだ、などというこだわりが何になるだろう。作品でもなんでもない。ただ、マインを撮っておきたいのだから。時間が残されている間に。撮っておいてよかったと思うことはあっても、撮らなければよかったとは思わないだろう。
そう意気込んで大型カメラ店のコンデジコーナーに向かい、その商品の数に圧倒されながらも最終的に選んだのは「180度チルト液晶」がついているもの。背面ディスプレイをフルに起こせば、カメラの上部に出てくる形になる。つまり、自撮り用。そう言葉にすれば照れるが、マインと一緒の写真が欲しかった。
くどいけれど。書かなくてもいいと思うけれど。
マインと私を一緒に撮ってくれる人はもう戻ってこない。私はこのカメラを買うことで、諦めることを決めた。やっと。カメラを買って帰り、1本の歯ブラシを捨てる。
ただ…。まちゃん、あなたも待っていたなら、ごめん。まちゃん、結構しつこいところあるからね。ごめん。
新しいカメラは本当に小さくて軽い。ちょうど戻ってきた愛機と並べてみたり、持ち比べてみたりすると、よくわかる。ゴールデンとチワワみたいだ。これなら出番で喧嘩することはないだろう。
(というわけで、次回は新しいコンデジ〜で撮ったマインの写真を載せてみたいと思います)
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