老犬とポラロイド

いつまでも続いてほしい、でも決して長くはない、老いゆく愛犬との大切な日々。

<23> 16歳2ヶ月、初めての発作

 16歳と2ヶ月、唾液の誤嚥が原因と思われる咳が治りきらないうちに、マインは初めての発作を起こした。それにしても前年は15歳になって間もなく椎間板ヘルニアになったし、誕生日クライシスというのは犬にもあるのだろうか。

 初めての発作が起こったのは昼間だった。いつものように自分のベッドで寝ていたマインは目を覚まし、トイレに行こうとしていた。でも、どうも後ろ足がもつれている。その様子からして初めてのことだった。

「まちゃん?」

 抱っこして足をさすってやろうとすると、全身を震わせて、よだれをだらだら流し始め、泡も混じり出した。

 ああ、これか……。

 老犬の発作についてはそれまでもよく聞いていたので、いつかはあるかも、と思っていた。動画も見ていたので、どういうふうになるのかも知っていた。

 だが、いざ、自分の愛犬がそうなると、その様子は見ているだけでかわいそうでたまらない。「発作で死ぬことはない」とわかっていても、このまま、ぱたっと行ってしまうのではないかという気がした。

 下ろした方が良かったのかどうかはわからないが、抱っこしている間に始まったので、そのまま抱いていた。

 発作が止まるまでは2分か3分くらいだったか。1分くらいだったのかもしれない。 時間を見ておいた方がいいというのも聞いていたが、時計を見るのに体をよじる気がしなかった。テーブルの上のスマホに手を伸ばすこともできなかった。

 失禁はしなかった。

 痙攣が止まってから、下りたそうにしたので(もともとマインは抱っこが好きではない)、ベッドに下ろすと、ぼーっとした顔のまま立ち上がってふらふらと廊下の方に歩き出した。過誤腫のある方の足がうまく床につけられない。玄関の5センチほどの段差でよろける。麻痺になるかもという不安がよぎった。

 見ていられなくなって抱っこをしても、下りたがるので、下ろして様子を見る。 そのうちに足取りが戻ってきて、目つきもしっかりしてきた。

 マインの体調のバロメーターはとにかく食べ物なので、祈るような気持ちでチーズを目の前に出して見ると、結構パクッといってくれた。少しずつ出すとそのまま食べ続ける。さらに食べたそうな様子まで見せる。いつものマインである。痙攣が始まってから約1時間がたっていた。

 動物病院には行かなかった。老犬の場合、1回の発作であれば、病院に行っても何も処置はしない。往診で鍼灸治療を受けているH先生に電話をすると、やはり「1回だけならよくあることなので、様子を見ましょう」とのことだった。

 その日は散歩はやめたが、その他はほぼいつも通りで、夕ごはんもよく食べた。

 もう、大丈夫だろう、ああ、びっくりした。

 私はその程度の気持ちでいた。その間にネットであらためてあれこれ調べて、糖分を摂るのがいいらしいと知り、夕ごはんが終わってからマヌカハニーを買ってきた。かぼちゃとヨーグルトとレバーとマヌカハニーを混ぜて、夜食に小さなお団子を作ってやる。マインの喜ぶ様子がその日は一層うれしかった。これからは毎日作ってやろう。マヌカハニーは高かったが、マインの食べる量は知れているから、よしとする。

 でも、安心していられたのは束の間だった。その3日後、2回目の発作が起きたのだった。(続きます……)

 

 

 

 

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