読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

老犬とポラロイド

いつまでも続いてほしい、でも決して長くはない、老いゆく愛犬との大切な日々。

<13> 老犬の夜食、飼い主の晩酌

 f:id:bassotto:20170205185618j:plainマインは人間と一緒にごはんを食べるのが大好きだった。

 彼がよく来てくれていたころは、食事をしている私たちの足元にしっかりおすわりをして上を向き、何かもらえるのを待っていた。

 とにかく「念ずれば通ず」が信念なので、飛びついたり、吠えたりはしない。ひたすら目力で訴え、それによって望む成果を収めていた。

 つまりはこちらが負けていたということだが、それはそれでルールができていたのでよしとする。

 自分のごはんは済んでいるので、量はわずかなものである。よく食べていたのは、私たちの定番だったカプレーゼ。味つけをする前に一切れのトマトと一切れのモッツァレラを小皿に分けるのが、私にとっても習慣になっていた。

 さらに小さく切って、トマトとモッツァレラをぽいぽいと交互に口に入れてやっていたのだが、数が合わなくなってきてトマトが続くと「ん?次はモッツァレラじゃなかったの?」という顔を一瞬するのが笑えた。

 彼はマインをすごくかわいがってくれていたので、たまに荷物が届いた後のダンボールが部屋に残っていたりすると、それでマインも一緒に囲める小さなテーブルを作ってくれたりした。

 周りに座布団も3つ並べてくれて、マインは当然のように真ん中にちゃっかりおさまっていた。自分の目の前に食べ物がある高さになっても、飛びついたりしないで待っているのには、わが犬ながら感心した。まあ、これもこちらが使われていただけなのだが。

 やがて、マイン用に取り分けておいたものがなくなったら、両手を広げて、目の前で「お・わ・り」というと、さっさと諦めて自分のベッドに戻る。無駄なことはしない性格である。

 それでもデザートが自分の食べられる果物だったりするとまた絶妙のタイミングで出てくるのだった。

 

 

 マインがそんなことをしなくなったのと、彼が来なくなったのと、どちらが先だったのだろうか。

 15歳になったころは、揃ってごはんを食べるのは日常だった。

 その後まもなく椎間板ヘルニアになって、それでもそれから復活したころは、私が昼食にそうめんを茹でると一緒に「ちゅるちゅる」していたはずだ。

 夏になり、歯周病の悪化と共に元気がなくなってきた、15歳と半年くらいのころが、やはりいちばんいろいろなことに気力を失っていたような気がする。彼が最後に来たのはこのころか。私はこの夏が暑かったのかどうかを思い出すことができない。

 その後、歯周病の状態がましになっても、私が何か食べているのに気づいてベッドから出てきたり、足元に張りついたりすることはなくなった。

 耳が悪くなっているほか、匂いにも鈍感になっているのだろうが、15歳の後半からはとにかく寝ていることが多くなった。  

 かつては私がキッチンに立つたびにウキウキしながらやってきて、マインに食べさせられるものが何もない時などは特に「もう、そんなにいちいち出てこないでいいから!」と思ったりしたのだが、もはやそれも懐かしい思い出になってしまった。

 

 

 それでも最近、16歳間近になってきたマインとまた一緒に食べられる時間がふとできた。

 というのは、老化が始まってからというもの、生活のパターンがなかなか定着しない傾向があるのだが、冬の寒さが厳しくなってからは夕方の散歩が早くなり、それにしたがって夕ごはんも早くなって、ほぼ6時から7時の間になっている。

 そして一度寝るのだが、その後、私が12時ごろに寝るまでの間に2回くらいは「小腹がすいた」感じで何か食べたがるようになったのである。

 もそもそと起きると、身体をブルブルをして、まずはトイレで「ちー」。それからおもむろにキッチンに向かう。

 玄関に続くドアやらバスムームに続く引き戸やら、いまいち向いている方向が変なのだが、とにかくキッチンのどこかで「ふせ」をして待っている。

 そこで私もそのタイミングで何か簡単に作って食べることにした。一応、夕食にあたる。ひとりだとこんなものである。ついでに少し飲む。まだ仕事中ということが多いが、私は飲んでも仕事ができるので、問題は(たぶん)ない。

 作るのはマインも食べられるものにして、やはり味をつける前にマインの分を取り分ける。マインと私がいちばん気に入っているのは、キャベツと豚肉の蒸し煮。なぜかマインは小さい頃からキャベツが好きだった。私は食べる直前に塩、オリーブオイルとしょうゆをちょっとたらす。

 マインはこの煮汁も喜ぶ。だから、本当は水を加えずにキャベツから出る水分だけで蒸し煮にする方が私は好きなのだが、水分を摂らせたいので、水を足している。

  豚肉の脂がちょっと浮いているのもおいしいのだろう。時には、そこにヤギミルクやチーズの粉を溶かしてやったりすると大受け。飲む勢いが違う。

 子供のころは、食べる時間は規則正しく、とか、肉の脂分なんてとんでもない、とか口うるさく言っていたものだが、多少ゆるくてもいいかなと思う。でも、食べっぷりがうれしいからといって、自分用の味のついたところを洗ってやるのはやめなければ。自分で苦笑する。いくら、それを見越して夕ごはんを減らしているとは言っても。

 マインと私の「夜食&晩酌」。老犬の生活のパターンはまたすぐに変わっていくだろう。この時間、いつまで続けられるだろうか。 

 

 

お読みいただき、ありがとうございました。
ランキング参加しています。下のバナーをクリックしていただけるとうれしいです。

にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ