老犬とポラロイド

いつまでも続いてほしい、でも決して長くはない、老いゆく愛犬との大切な日々。

<11> 老犬の「冷え」には腹巻と温灸

f:id:bassotto:20170120204930j:plain マイン、15歳の冬、11月のある日。早朝、お腹がキュルキュル鳴って、透明の胃液を吐いた。

 こういうことは子供の頃から年に何回かあった。お腹が減りすぎた時だ。そういう時は、前の晩に食べる量が微妙に少なかったとか、食べる時間が微妙に早かったとか、思いあたるふしがあった。

 こうなると、お腹が減りすぎて食べられない。それでも大抵、人間用のプロセスチーズとか、ちょっと味の濃いもので食欲がわくように仕向ければ、やがてごはんも食べ始めて、普通に戻った。

 だが、今回のお腹の不調はそれではなかった。いつまでも、何をしても、食欲が戻らない。最後にはコンビニに行ってシュークリームやプリンまで買ってきたのだが、それでも悲しそうに横を向いた。

 マインにとって、食欲は健康の最大のバロメーター。どこか悪いのではないか。12歳の時に重い膵炎と肝炎を患った記憶が蘇ってきた。あの時も最初はお腹のキュルキュルだった。だんだん不安が大きくなってきて、午後、いつもの動物病院に向かう。

 血液検査の結果は、リパーゼとCRPがやや高かったものの、それはこれまでよくあったこと。単純に膵炎とは言えないという診断で、とりあえず、お腹のキュルキュルを止める注射を打ってもらって、様子を見ることになった。

 その注射は何度か打ってもらったことがある。かなり速効性があり、キュルキュルはすぐにおさまり、家に帰る頃には食欲も戻る。

 今回もその通りに効いてくれた。とりあえず胸をなでおろす。

 だが、わずか1週間後、マインはまたお腹の調子を悪くして、まったく同じ一日を繰り返した。動物病院の先生には「高齢になって腸の働きが弱っているのかも」と言われたが、食べるものには気を使っているつもりだったので、どうしたものかと途方に暮れた。

 ちょうど翌々日はH先生の鍼灸の往診の日だった。

「冷えたのかもしれませんね」

「冷え、ですか……?」 

 まだ11月。それほど寒いとは思っていなかった。そもそも、夏の暑さにはずっと気をつけていて、エアコンもフル稼働していたが、冬はそれほど心配するまでもなく、ベッドにブランケットを上下しっかり入れてやれば大丈夫だと思っていた。室内では服も着せていなかった。

 しかし、老犬はそういうわけにはいかないらしい。やっぱり1年前とは違うのだ。

 冷えると血行が悪くなるので、腸の働きが鈍くなるとのこと。

 たしかに2回、お腹の調子を悪くした時、寝ている間、マインはベッドの上ではなく、床の上にはみ出して寝ていた。カーペットは敷いてあるのだが、言われてみれば、たしかにひんやりしている。

 H先生のアドバイスは「腹巻+温灸」。なるほどと思い、手元にあった黒のフリースで早速、腹巻を作ってみた。胴回りの寸法を横、胴をすっぽり包める長さを縦として布をカット、マジックテープを縫い付けて、クルッと巻いて背中で留めるようにする。

 多少は見た目も考えて、チロリアンテープ(懐かしい響き!)を手芸屋さんで購入、合わせ目につけた。2枚作って、1枚は室内用、1枚は散歩用にする。

 そして、手軽で安心な温灸として勧められたのが「せんねん灸 太陽」。シールを剥がして貼るだけの煙が出ない温灸だ。

 漢字の「凸」のような形をしている。出っ張り部分に発熱剤が入っていて、上のシールを剥がせば発熱が始まる。下のシールを剥がして患部に貼るわけだが、そこにはもぐさシートが仕込まれている。皮膚面の温度は40度から50度で、3時間効果が持続する。

 メーカーのサイトによると、疲労回復、血行をよくする、筋肉の疲れを取る、筋肉のコリをほぐす、神経痛・筋肉痛の痛みの緩解、胃腸の働きを活発にする、の6つの温熱効果があるらしい。

 H先生いわく、服の上から腰に1つ、冷える時は腰とお腹に1つずつで合計2つ、お腹の調子を悪くした時には、お腹に2つくらいしっかり貼ってやるといいとのこと。

 そうして、裏起毛フリースのトレーナーを部屋着と決め、腹巻をして、その上から主に夜、寝ている間に温灸を腰とお腹に貼ってやることにした。

 ついでにベッドも座布団を並べて、はみ出してもいいように増床、ブランケットも私が一番気に入っていた軽くて大きいマイクロフリースの1枚をマイン用にした。

 それ以来、お腹の調子を悪くすることはなくなった。身体はいつもあたたかい。それがいいのか、文字通り真冬になっても散歩を嫌がらない。

 人間でも、体温をあげると免疫力が高まるとよく言う通り、犬にとっても、冷えはやっぱり「万病の元」なのかもしれない。私も時々、「せんねん灸 太陽」を分けてもらっている。じんわりとあたたかい。

 

 

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