老犬とポラロイド

いつまでも続いてほしい、でも決して長くはない、老いゆく愛犬との大切な日々。

<9> 鎮痛剤依存を脱するまで

 歯周病対策を見つけてやるまで、マインは本当にしんどかったのだろう。食欲もなかったし、歩いてもフラフラしていたし、狭いところに頭を突っ込んで出られなくなっていたし、トイレもわからなくなっていた。表情もどんより。起こしても起きない。口の中の痛みと煩わしさで頭も身体も思うようにならなかったに違いない。

 でも、そんな中でも症状がかなりましになる時があった。かかりつけの動物病院で処方された、「リマダイル」という痛み止めをのませた時だ。関節の痛みを抑えるためにもらったものだが、マインの場合はむしろ口の中の痛みに効いているようだった。

 あれだけ西洋薬嫌いでものむのだから、本犬も必要だと思っているのかもしれない。身体に合っているのかもしれない。

 そう思って、継続的にのませられないかと相談すると、困った顔をされた。腎臓に負担が大きいらしい。この先生は飼い主の希望することに「ダメ」と言うことはまずない。渋るのはよほどのことなのだ。

 往診で鍼灸をしてもらっているH先生は週に何回かは動物病院勤務もしていて、やはり継続的にはのませない方がいいとの意見だった。むしろ、先生が勤めている病院では、そもそもマインのような老犬には処方しないらしい。

 私自身もネットで調べた。飼い主の不安を煽るような過激な書き方をしたサイトをやっとの思いでくぐり抜け、信頼できる情報をまとめる。やはり、それなりに副作用が多い薬であるのは間違いない。

 でも、この薬をのめば、ごはんをしっかり食べる。元気が出る。

 日々の辛そうな様子を見ていられず、「でも、腎臓が悪くなるとは限らないですよね」「量を減らしてもダメでしょうか」などと、すがるように聞いてみるが、「大丈夫だ」といってもらえるわけはなかった。

「痛みがひどそうな時のためにもらっておきたい」と言って、動物病院で出してもらったのは7日分。

 調べてみると、リマダイルの投与量は体重1kgあたり1日2mgから4mg。マインは5キロとして、1日10mgから20mg。 

 動物病院でもらっていたのは、75mgの錠剤を4分の1に割ったものが1日分で、つまり約18mgから19mg。私はそれをできるだけ割って、マインがなんとか1日分のごはんを食べられる程度に元気になる量を探った。

 そこでわかったのは、必要なのは1日分の8分の1。つまり2mgから3mg。包丁で割っているだけなので、大きさにはばらつきがある。ちょっと小さければ思うような効果が出ない。それくらいぎりぎりのところだった。

 でも、この程度で食べるようになるのだ、これくらいならのませ続けられないか、食べない方がよほど身体に悪いのではないか。

 そんなことを思う反面、芥子粒ほどの大きさのオレンジ色の薬を1日1回、口が気持ち悪そうな時に飲ませていたヨーグルト水に混ぜる時は、毒をのませているような罪悪感でいっぱいになる。

 今日はやるのをやめてみよう。

 そう決めて、8分の1かけらを1回飛ばすと、マインは急激にぐったりする。

 そこで、またつい、やってしまう。

 そんなことばかり繰り返していた。

 ネット上の個人輸入代行ショップで買えることもわかった。

 マインの命の長さ。腎臓病になるリスク。日々のQOL。秤にかけられないものを秤にかけて、何を取るのか。

 飼い主判断、個人の責任という言葉が重く心にのしかかるのを感じながら、マインのことを一番よくわかっているのは私なのだ、マインは自分で選択できないのだとも思う。

 

 結局、歯周病の症状が改善してきたのと同時に、リマダイルからは自然に離れることができた。個人輸入代行ショップのカートに入れてあった商品は削除した。

 同時に、H先生の鍼灸治療の効果についても、何回か受けたところで、身体の調子がかなり整ってきていた。

 鍼灸をしてもらったとたんにシャキッとするという話をよく聞くが、マインの場合はそういう感じではなく、徐々に効く身体になってきたように見える。

 高齢だけに、身体の中に頑固な沈殿物のようなものがあったのかもしれない。繰り返し治療を受けるうちに、それが少しずつ柔らかくなり、溶けて流れて、よどみが解消された印象がある。

「物理的に」口の中のドロドロした膿がかなりなくなったせいで、歯の痛みに効くツボに打ってもらっている鍼も本来の効果を発揮するようになったのだろう。

 日頃の関節サポートには、自然素材由来のサプリを出してもらった。上薬研究所の「フレックスPRO」という製品で、原材料はキャッツクロー、緑イ貝、デビルズクロー、霊芝、乳酸菌発酵エキスで、いずれもヒューマングレードのものである。

 会社のウェブサイトを見ると、非常に信頼できる会社であることがわかる(企業ウェブサイトの制作に関わっているので結構「嘘っぽい」ところはわかる)。そこで、この会社の「イムノPRO」というサプリも免疫力アップのためにのませている。原材料は霊芝、メシマコブ、フコイダン、乳酸菌発酵エキス。

 こうして、15歳9ヶ月の時点でマインが常用しているのは、漢方薬局でマインの状態に合わせて処方してもらっている漢方薬と2種類のサプリ、それにやはりH先生に出してもらった、天然の海藻成分のみを使用している「プロデン デンタルケア」になった。

 高齢犬なりの諸々の心配はあるが、基本的には持病もない。副作用の心配のない漢方薬とサプリですんでいるのはしみじみうれしい。どうかこれができるだけ長く続いてほしい。

 

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