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老犬とポラロイド

いつまでも続いてほしい、でも決して長くはない、老いゆく愛犬との大切な日々。

<4> 今度は歯周病

 どうやらおもちゃには興味がなくなったらしいマインのために、脳や感覚のトレーニングにもなり、コミュニケーションもとれる楽しい遊びをあれこれ考えて、本犬も乗ってきたのが「そうめんちゅるちゅる」だった。

 昼夜が逆転しがちなのを戻すために、昼間に一度起こすことにしたのだが、ある日、私が昼食に食べていたそうめんをからかい半分に目の前に一本垂らしてみると、結構頑張って見定めて、ぱくついてきたのがヒントになった。

 上から垂らせば、頭を上げざるを得なくなるから、首の筋肉も鍛えられるだろうし、垂らしてちょっと揺らせば、目で追うので、目のトレーニングにもなりそうだ。

 こうしてしばらく、マインと私はお昼になると一緒にそうめんをちゅるちゅるしていた。

 

 ところが、そうしてちゅるちゅるさせていた7月のある日、ふと気づいた事があった。

 下の歯ってこんなんだったっけ? もしかして……溶けてない?

 ああ、歯周病だ……。

 最近、口をいつもくちゃくちゃさせているのが気になっていたものの、口の中を見ようとすると激しく抵抗するので、そのままにしていた。

 しょっちゅう手を舐めているのも、口が臭いのも、これで解せた。

 手を舐めているのは、湿度のせいで指か肉球の間がむれて、痒みがあるのかと思い、毛を短くカットして、固く絞ったおしぼりでこまめにきれいに拭いては、ドライヤーで乾かしてやっていた。だが、実は、口が気持ち悪くて、手の毛で取ろうとしていたのだ。

 口が臭いのは、タンパク質が多すぎて、胃腸に負担がかかっているのかと、肉や魚を少なくしていた。

 歯磨きはずっとしていなかった。子供の頃はしていたのだけれど、ついつい面倒になっていた。11歳で過誤腫の手術を受けた時、レーザーで歯石とりをしてもらって、それから歯磨きを再開したが、長続きしなかった。

 私が悪かったのだ。にわかに自責の念に襲われる。

 とにかく動物病院へ行った。口を触ろうとすると激しく怒るので、先生も、抵抗しながら口を開けたところを見ることしかできない。

 あれこれ訴えてみるが、老犬に歯周病はつきもの、歯磨きをしていなかったのなら仕方ないと、先生は随分のんきに見える。

 若ければ、麻酔をかけて、歯石を取って、悪い歯を抜いてしまうのが一番いいんですけどね。まあ、高齢なので無理ですから、抗生物質と痛み止めくらいしかありません。お薬嫌いですよね。飲めますか?

 また、マインの薬嫌いのことが蘇る。

「一応……いただいていきます」

 心細い気持ちで病院を後にした。

 

 家に帰ってから、また漢方薬局に相談する。頼みの綱であったが、「漢方でも常在菌の退治はできない」と言われる。それでも長期的な観点から、「バイタレスク」という納豆菌由来の漢方を追加してもらった。

 他にできることはないのか。ネットで探して、須崎動物病院の「乳酸菌パウダー」をネットで購入。塗ることができればいいが、舐めるだけでもしないよりマシという話に飛びつく。

 マヌカハニーもいいというので、六本木のグリーンドッグに在庫を確かめた上で、買いに行く。何か一つでも試せるものが、きょう欲しかった。ネットで注文して、明日まで待つことができなかったのだ。

 その名も「歯にマヌカ」。ニュージーランド産の希少な蜂蜜に超微粒子の銀サプリメント入りだという。「まずは舐めさせるだけでOK」とある。「本当に舐めるだけでもいいんですか」と店員さんにすがるような思いで聞く。

 歯磨きが一番いいのはわかっているが、とにかく口を触られるのを嫌がる。「歯磨きが好きになる方法」はネットにごまんと溢れているが、そんなことが通じる犬ではない。死んだ方がマシとばかりに全力で抵抗する。

「舐めるだけでも」の言葉にすがり続ける。

 

 薬嫌いで、どれほど小さな粒をごはんに混ぜてもすぐに完治して全拒否するのに、その夜、抗生物質と痛み止めはなぜかすんなり飲んだ。

 漢方薬局の薬剤師が言った「犬や猫は必要なものは飲みますよ」という言葉を思い出す。マインもこれは必要だと思ったのだろうか。

 痛み止めは身体を楽にする効果もあったようで、久しぶりにお腹を見せて床を「ごろごろ」もした。

 急いで調達したハチミツは喜んで舐めた。間もなく届いた乳酸菌パウダーも水に溶かすと飲んだ。 

 これで少しでも良い菌が口の中で増えてくれれば……。

 いやいや、歯磨きも今度こそ、やらなければ、今度こそ!

  

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