老犬とポラロイド

いつまでも続いてほしい、でも決して長くはない、老いゆく愛犬との大切な日々。

<24> 16歳2ヶ月、最初の発作から3日後、2回目が起きる

 初めての発作から3日後。2回目の発作は夜中だった。その頃、マインは夜中でも時々起きては何か食べたがるようになっていた。「ダメ」というしつけをする年ではないので、量を調整して、その都度お腹の負担にならないものをちょっとだけやるようにしていた。

 茹でたキャベツにかぼちゃのペーストを巻いて(本犬的に)一口大にしたのを2つくらいやったところで、マインはふらふらと歩き出し、ふと固まった。

 なんとなく、「あ、くるかな」と思った途端、マインはバタッと横向きに倒れ、全身を痙攣させた。足を激しく、空中を掻くようにバタバタさせて、顔を床に打ち付ける。ゴンゴンという音がする。血がカーペットにつく。口からはよだれと泡が流れ出ている。前回は抱いていたので比較にならないが、今回の方が激しいように見える。

 幸い、周囲には何も置いていなかった。とにかく少しでも痛くないようにと、手近にあったバスタオルを差し入れた。時間はやはり1分か2分。今回は時計が見えるところにいて、実際に時計を見たのに、ちゃんと針を読んでいなかったために、結局どれくらい続いたのか正確にはわかっていない。

 おさまったところで抱き上げた。しばらく撫でていると、下りたがったので、下ろした。また、ひたすら歩く。よろけながら、ふらふらと。前回と同じだ。30分くらいそうしていただろうか。体力を消耗しているのではないかとも思うのだが、マインは歩くのをやめなかった。

 次第に足取りもしっかりしてきたころで抱き上げてベッドに連れていくと、そのまま寝始めた。

 私にとっては、2回目は1回目よりもショックだった。1回ならよくあることーーそう思っていた。1回なら「てんかん」とも言わないそうだ。

 まず心配したのが、繰り返すということは脳腫瘍が原因ではないかということだった。そうであれば、これからもてんかんは繰り返し、そのほかにもさまざまな障害が出てくるかもしれない。  

 脳腫瘍であったなら、前回の発作以降、マヌカハニーをせっせとやったのも間違いだった気がしてくる。腫瘍に栄養を与えただけではないか。中途半端な知識はマイナスに増幅する。  

 朝になるのを待ってH先生に連絡した。「脳腫瘍による重積発作であれば、もっとしょっちゅう起きる」と聞いて少し安心した。  

 一応、また起きた時のために座薬(ダイアップ)を出してもらうことにする。座薬なんて使ったこともないので自信はないが、いざとなったらできると信じよう。子供がいれば一度や二度は経験しているものだろうか。  

 それから、ずっと漢方を処方してもらっているS漢方薬局にも電話をして相談した。ペットに対する処方経験も豊富ななじみの薬剤師さんは「てんかんにはこれしかないというものがあって」といつもの自信満々な様子。早速その薬を送ってもらう。  

 さらに、いよいよ困った時、自分でどうしようもなくなった時に駆けこめる先として、いつもの動物病院も行っておいた。ここの先生は、夜中でも留守電にメッセージを入れておいたら、すぐに対応してくれる。先生もマインの様子から、脳腫瘍とは考えにくいとのことだった。ついでにフィラリアの薬ももらい、またそのついでに血液検査。 

 一応、考えられる手は打った(と思う)。それでも、この2回目の発作以降、マインを見る目の「デフォルト=不安」になったことはたしかだった。若い頃とは違って、老犬になると、なんであっても「完治」ということは少ない。「再発」「悪化」は想定内、目標は「維持」。  

 発作の前兆として、思い当たることがなかったわけではない。2回目の発作が夜中に起こった日、夕ごはんは食べたが、その後、どうも反応が鈍かった。ぼんやりしていてもお尻をちょんとつつくと、普通であればすぐにぴょこんと動くが、それがなかった。その前の夜食の時、口元にチキンを出しても最初、不思議な感じで無反応だった。  

 思い起こせば1回目も変なことがあった。発作が起きる数時間前、珍しく抱っこさせてくれていた時、なぜかよだれがたらーっと流れたのだ。  

 でも、こんなことは時々あるといえばある。「ここからは発作の前兆」というラインがあるわけではない。なんだかいつもハラハラ、ヒヤヒヤしている気がする。出かけている間に発作が起きたらと思うと、外出する気にもならない。  

 自宅が仕事場なのでそれでいいといえばいいのだが、秋から冬は外に出なければならない仕事が増えるのが毎年のパターン。どうしよう。  

 そんなことをくよくよ思いながら、2回目の発作から今でほぼ2ヶ月がたっている。 

 ただ、「デフォルト=不安」になると、当たり前のことが嬉しくてならない。よく食べる、よく寝る、ちょっとくらいは走る。そんな姿で自分が笑っているのに気づく。

 夜はいつもラジオを聴きながら寝るのが習慣だったが、それもしなくなった。マインの寝息やらいびきやらを聞いているほうがいい。どんな一日もそれで完結する。

 

 

 

 

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