老犬とポラロイド

いつまでも続いてほしい、でも決して長くはない、老いゆく愛犬との大切な日々。

<21> 漢方薬に頼るようになったわけ − ALP14309からの復活

f:id:bassotto:20170423124339j:plain マインに漢方薬を飲ませるようになったのは、12歳で重い肝炎を患った時だった。

 最初は早朝のおなかの「きゅるきゅる」だった。1年に2〜3回はそういうことがあったので、「あ、まただな」と病院に連れていった。

 ところがいつもは「きゅるきゅる」を抑える注射を打ってもらえば、その日のうちにでも回復していたものが、その時はそうはいかなかった。

 むしろぐったりしてきて、翌日も病院へ。血液検査の結果、肝炎と診断された。点滴と注射をしてもらい、合計6種類もの薬をもらって帰った。

 しかし、この時はマインが薬を絶対的に拒否した。それまでなかったことだ。病院も注射も薬もまったく平気だったのだ。食欲がないせいもあったが、薬を入れなければ、大好きなチーズは口にした。

「薬を飲ませる方法」をネットで調べまくり、あらゆるやり方をした。人間のケーキに入れたりもした。でも、とにかく絶対的に拒否。

 そこで、先生と相談して、毎日病院に連れていき、注射で薬を入れてもらうことにした。だが、一つだけ錠剤しかないものがあって、それは先生が飲ませてくれた。

 注射と薬を飲ませるのは、診察室ではなく、奥の処置室でやってくれていたので、様子を見ることはできなかったが、「こんなに苦労したのは初めて」と先生が思わず漏らしたのには当惑した。ミニチュアダックス恐るべし。

 でも、それだけ薬を入れても、マインの症状は一向に改善せず、ある時、ALPが「14309」にまで跳ね上がり、先生から「他に原因があるのかもしれないから、詳しい検査を受けてみますか」と提案された。

 紹介状を書いてもらって、東大の附属動物医療センターで検査を受けた。待合室は重い症状を抱えた子がいっぱいで、辛くなって外に出た。9月だったが、それほど残暑は厳しくなかった。

「ここ東大だよ、すごいね、おかあさんも初めて入ったよ、まちゃんのおかげだね」とマインと一緒に携帯で写真を撮った。その時はふたりで撮る最後の写真かもしれないと本気で思った。

 CTの結果、新たに何かが見つかったということはなかった。診断はかかりつけの先生と同じで、薬もこれまで処方されたものが最善とのことだった。

 麻酔から覚めかけのマインのぼーっとした、でも悲しそうな顔が忘れられない。抱いてきてくれた先生が「あ……」と言った。先生の手にウンチをしていた。「一晩入院させますか」と言われたが、「連れて帰っていいなら連れて帰ります」と即答した。

 翌日、またいつもの病院に行き、先生と今後のことを相談した。とは言っても、先生にできることはこれまで通りのことしかない。また、病院通いが始まったが、やはりその後もマインの症状は変わらなかった。

 困り果てた先生はついに「一度、薬を切ってみますか」と言った。「匙を投げる」の由来はこういうことだったかとぼんやり思った。多少心細くはなったが、これだけ続けて結果が出ないのであれば、マインに負担になるばかりなのはわかっていたので「はい」と答えるしかなかった。

 この日で毎日の病院通いは終わった。最初の「きゅるきゅる」から、すでに1ヶ月以上がたっていた。

 漢方を試してみようというのは、少し前から考えていたことだった。特に漢方薬になじみがあったわけではないのだが、ネットで調べて、なんとなくよさそうな気がしていた。

 犬の漢方を処方してくれる動物病院や漢方薬局もいくつか見つけてあって、すでに問い合わせもしていた。その中で、ホームページやメールのやりとりなどから印象がよかったのが、結局、マインの肝炎をすんなり治してくれて、その後、現在に至るまでずっとお世話になっている座間市のS薬局である。

 メールや電話の相談で薬は送ってくれるとのことだったが、一度は直接話がしたくて、薬局を訪ねた。

 店の前面がガラス張りの明るい雰囲気の薬局だった。店内も白が基調で、比較的広い相談スペースもある。親子二代でやっているようで、お父さんが昔からやっていらして、息子さんも一緒にやるようになってから、店を新しくしたという感じだった。私の相談にも乗ってくれた、40代とおぼしき息子さんの方が今は中心になって店を切り盛りしているらしい。

 とにかく薬嫌いになっていることが心配で、そのことも話したが「ワンちゃんやネコちゃんは案外、自然のものは飲みますよ」とさらっと言われた。あまりにも自信満々でちょっと訝しい気がしないでもなかったが、とにかくこちらは藁にもすがる思いであるから、そうであってほしいと願うだけである。

 また、藁にもすがる思いとはいえ、金額の相談もできたのは内心助かった。「どれだけかかっても」とは言えなかった。

 私にとっても初めての本格的な漢方薬は(葛根湯くらいしか知らなかった)、マイン用に何種類かが粉になって混ぜられ、1回分ずつ半透明の小袋に入って連なっている。私はバッグに薬袋を入れ、祈るような思いで胸に抱えて持ち帰った。

 家で袋を開けてみると、ふわっと草木の匂いやスパイスの匂いが立ち上った。その薬をかぼちゃのペーストに混ぜて丸め、なるべくさりげなくマインの顔の前に出す。

 すると、何の躊躇もなくパクッと食べたのである。何を出しても疑り深くなって、匂いをさんざん嗅ぐようになっていたのに、そんな仕草すら一切見せずに。目を見張らずにはいられない。

「え?まちゃん、これ好き?」

 漢方薬を混ぜたかぼちゃペーストをどんどん出してみる。どんどん食べる。

 これで救われる。まだ結果は出ていなくても、マインの様子でそう思った。マインは自分に必要なものを知っている。

 実際にマインはその日を境に一気に快復した。一度は「もしかしたらこのまま……」と思ったのが嘘のようだった。

 

 

 

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